手織りを学び始めたとき、ストールを織るって決めていました。

大判で少し薄手のストール。
私にとってそれはいつでもファッションを自分らしくまとめてくれる大好きなアイテム。
服何枚分もの力がある頼れる存在。
ファッションのためのアクセサリーとしてはもちろん、膝にかけたり、お昼寝の肩まわりにもと実用性も優れてる。
だから真夏以外はいつも一緒。

そうして愛用しているうちに、気づくとストールは気持ちを支えてくれる存在になっていました。

苦楽をともにする仕事仲間に恵まれていても
家に帰れば大切な家族がいると分かっていても
ハードな仕事で疲れ切った帰り道、ふっと孤独を感じる時があるけれど
そんなとき何も言わずに寄り添ってくれたのがいつも一緒のお気に入りストール。

頬に触れるあたたかさに気づいてふっと力が抜ける。
出先では膝にかける癖がついていて、そうすると気持ちが休まる。

そう、ストールはファッションにも防寒にも心にも重要な、とても特別なもの。
だから織るならストールがいい。
肌が弱い私でも毎日使える、チクチクしなくて、あったかくて、優しいストール。

それまでお店で買って愛用していたストールは肌に合うすべすべしたカシミア。
でも、初めて織るストールには細いラムウールの糸を選びました。

何度も経糸を切ってしまって苦戦しながら織りあげた、初めてのラムウールストール。


初めて織るラムウールストールは教室で。



完成したものを巻いてみてカシミアとは別の優しさにびっくり。
ウール独特のふくらみが空気を抱き込んで、ぽわ~んとしたあたたかさ。
そして全然チクチクしない。すべすべとはまた違う、ふんわりとした手触り。
ウールにこんな素晴らしい素材があるなんて。


後になって、それはちょっと特別なウールで
オーストラリアのジロン地方で育てられた生後6か月頃の仔羊の羊毛であることを知りました。

それからはジロンラムウールに夢中。


ジロンラムウールを手織りで扱う。だからこそ出来ることを考え続けて。


どんな風に織れば空気をたっぷり含んだあたたかいストールになるのか
どんな風に仕上げればもっと柔らかく優しいものになるのか
たくさん織って研究しました。

もちろん、どんなサイズと色柄なら、毎日使いたくなるデザインになるのかも。

atelier chiguのストールはchiguのラムウールへの愛がギュッと詰まった作品です。
持つ方の気持ちまで暖かく覆ってくれることを願って制作しています。



こだわりの技術


細番手の糸を、うんと隙間を空けて織ります。

向こうが透けて見えて、頼りないくらいに。

1センチ内に何本、と均等に糸を入れていくには、

一般的に機織りと聞いて想像するようなとんとんと打ち込む方法では無く、

そっと糸を押す程度の優しい力加減とたくさんの時間が必要です。

当アトリエでもっともこだわるポイントです。



織った後はていねいに房を撚ります。




房が撚れたら、縮絨という仕上げ作業にかかります。

お湯に浸けて適度に刺激しながらストールをちょうど良いサイズ、密度に縮め、ふんわりと起毛させます。

手触りが良く柔らかく適度な厚みのストールに仕上げるには、お湯の温度や作業時間などを感覚で見極めることも大切です。

この作業によって、一本一本だった糸同士が縮み、起毛してくっつき合い、透けるようだった布は目の詰んだあたたかな姿へと変化します。




陰干ししてスチームを当て、空気をたっぷり含んだ軽いストールに仕上がりました。